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最大70Wでパワーマネジメントが可能なワイヤレス充電IC、STマイクロエレクトロニクス「STWLC98」

公開日:2021/10/14 10:00

カテゴリー:記事

STマイクロエレクトロニクスより、ワイヤレス充電IC「STWLC98」が発表されました。
「STWLC98」は、ワイヤレスの電力送電において受電側のコントロールが可能となるICで、受電した電力を最大で70Wの給電レートで電源を供給することが出来ます。
 
ワイヤレス充電は電磁誘導を利用した送電システムで、送電、受電それぞれに設けられた2つのコイルにより電力を伝えます。
送電側のコイルは電流が流れることで磁束が発生します。磁束が生じている磁界に受電側のコイルを近づけることで誘導起電力が生じます。ワイヤレス充電はこの発生した電力を利用したものです。
 
STWLC98は受電側のコイルから得られる電力を、最適な形で利用できるパワーマネジメントICです。スマートフォンのようなモバイルデバイスから、大きな電力を必要とする機器など幅広いシステムへの組み込みが期待できるので、今後のワイヤレス送電対応デバイスの登場が待たれます。

ワイヤレス充電のこれまで


ワイヤレス充電(送電)においては、スマートフォンなどで使われる”Qi”(チー)という標準化された規格が存在します。Qiはスマートフォン黎明期から間もない2010年に登場し、初めは最大5Wのワイヤレス送電規格でした。
その後Androidスマートフォンなど数多くの機種でQiに対応し、国内ではNTTドコモなどからワイヤレス充電器が販売されており、置くだけで充電できると取り沙汰されていたと思います。
ただ、当時より人気のあったAppleのiPhoneでは採用されなかったこともあり、Qiを採用したデバイスは次第に数を減らしていきます。
ワイヤレス送電は、交通系ICのSuicaといった小電力の用途にはもとより普及していましたが、スマートフォンの充電といった比較的大きな電力の送電について2010年代半ば頃は、ユーザーレベルではあまり広がりを見せていませんでした。
 
下火となっていたワイヤレス充電ですが、近年では車載といった用途で注目され始めたことや2017年9月に発売したiPhone 8がワイヤレス充電に対応したことから急速に普及しています。
当初は取り扱える電力も少なく効率も悪かったことから、充電に時間が掛かることや発熱が懸念されていました。
最近ではUSB PDによりケーブルをつないだ充電は高速化しており、それに併せてQiによる充電も高速化しています。またAppleはマグネットで固定できるQi対応のワイヤレス充電器”MagSafe”を2020年に発売するなど、取り回しが良くなるよう工夫が施された製品が登場しています。

70W対応のワイヤレス充電IC” STWLC98”


STWLC98はワイヤレス送電において、受電側のコントロールシステムを担うことが可能なICチップセットです。ワイヤレスで受けた電力を最大70Wのシステムとしてデバイスに電源を供給します。
2021年に制定された”Qi 1.3”に準拠した性能であるため、スマートフォンといったモバイルデバイスへの採用も考えられます。Qiをサポートしたシステムの場合は最大15Wとなります。
STWLC98の特徴として、32bit ARM Cortex M3ベースのMCUを搭載しているため、ワイヤレス充電システムをプログラマブルに設計しやすいことが挙げられます。コントロールのためのインターフェースはI2Cとなっており、ごく一般的な方法で使うことが出来ます。
パワーマネジメントICとしての、過電圧、過電流、熱保護の機能も兼ね備えており、安全に設計したい場合にも役立つでしょう。
 
また、STWLC98はQiの他に、ST Super Charge(STSC)プロトコルというSTマイクロエレクトロニクス独自のプロトコルに対応しています。最大70Wでの給電は、STSCを利用することで実現できます。STSCを利用した大電力のワイヤレス利用は、車載をはじめ、医療機器やドローン、コードレス電動工具といった用途が挙げられています。
 
STWLC98の単価は約2.60ドルで組み込み開発向けに提供されています。
 
スマートフォンのワイヤレス充電と言った用途によく使われる規格であるQiは、製品が規格に準拠していることを示すのに、認証が必要となります。規格に適合するためには、様々な基準をクリアするために複雑な設計が必要です。STWLC98はQiの規格に準拠しているため、IC一つでワイヤレス充電の設計が大幅に簡略化することが出来ます。そのためメーカーにとっては認証のハードルが下がるので、様々なワイヤレス送電に対応したデバイスの登場に期待できそうです。

画像:Wikipedia - Inductive charging
By Seawhelan - Own work, CC BY-SA 4.0